自閉症とその近縁領域の問題は,長年,子どもの臨床家の間では大きな関心ごとであったが,ここ最近,自閉症スペクトラムという形でその概念が拡大されるなかで成人の心理臨床や精神科臨床においても大変注目されているのは周知の通りである。本書にも示されているように,子どもの臨床から派生した概念を成人の臨床に拡大して適用する流れは,実は精神分析において早くから見られた。本書に収められた各論文は,それぞれの執筆者たちが,自閉症スペクトラムを持つ子どもや大人の経験世界に深い関心を寄せ,それを我が事のように理解しようとしていることを読者に伝えている。本書が,わが国の心理臨床や精神科臨床において,自閉症スペクトラムを持つ子どもや大人の経験世界に深い関心を持ち,彼らと心を通わせていこうと試みる臨床家が増えていく一助となることを願う。