糖尿病治療に関する本は、巷に満ちあふれている。しかしこの本は、類書にしばしばみられるような、通りいっぺんの治療法を書いたマニュアル本では決してない。本書の命であり最大の特徴は、本書の各所にちりばめられた生きた実例の数々である。それらの実例によって、実際の患者さんを目の前にするような臨場感を、私どもは何度も味わった。まさに、現場で個々の患者さんに対して実践することを目的に書かれた本であることがよくわかる。しかも、各々の実例に対する対処の指示が、簡潔明瞭で、不思議にすっと飲み込める。本書は、どの章も基本的な記述の部分と、症例をもとに実際の診療を疑似体験する部分とからなっている。この両部分は表裏一体となり、症例部分が記述部分の理解をさらに深める役目を果たしている。内容が容易に理解できるのは、この絶妙の構成によるところも大きい。(「監訳者序」より)