激しいこころの痛みを抱えた人々が大勢いるのが明らかであっても,標準的な心理療法の援助が及ばない人々や世界がある。今日の臨床現場や援助の状況の多様化にともない,こうした領域で働く臨床家は急速に増え,彼らは「専門家として,何をなすべきか」を自問自答しながら,日々,悪戦苦闘している。心理療法が有効に機能する設定について,施設管理者や同僚から十分な理解を得られず,こころのケアの「何でも屋」として使われている状況もある。この種の領域では,働くすべての対人援助職が心理的に過酷な状況に追い込まれていることも少なくない。このとき臨床家の仕事に,理論的根拠と専門的技法を与えてくれるのが,ワーク・ディスカッションの理論とその実践の蓄積なのである。