かつて人知を遙か超えた魔術的思考として永く夜の闇へと放擲されてきた催眠は、その治療術としての真価をミルトン・エリクソンの名とともに復権する。この栄光の時代を経由して、催眠は今日さらにその臨床的価値と評価を高めつつあるが、しかし同時にその秘儀的来歴から「学知(discipline)」としての体系化を未だ果たせずにいる。この未完のプロジェクトを引き受け、催眠の歴史的考察から臨床的考察へと論点を横断し、かつて誰にも為されることのなかった催眠の原理論を樹立しようとする試論――この言葉こそ本書の定義にふさわしい。現代催眠の父としてのミルトン・エリクソンを継承し、コミュニケーション技法としての催眠誘導技法、観念誘導技法、催眠感受性への細密な考察を施し、今日的水準に適うエビデンスとエチカを構築する。現代臨床催眠の極地点へと迫る徴をその記述に残し、催眠の夜の闇を超えようとする本書は、したがって現代催眠学の到達点を標す水先案内、そのためのマイルストーンである。